後編/メンバー全員インタビュー
── 今作は「海」をコンセプトに作られたとのことでしたが、モチーフを選択するに至ったきっかけはありますか?
明神 夏の曲、楽しいじゃないですか?(笑)そこをきっかけに始まったのもあるし、まだイマイ(Ba.)くんが入る前に、僕と小林(Gt.)と阿久津(Dr.)と3人で江ノ島に行って弾き語りの動画を撮ったりした思い出もありますね。
小林ファンキ風格(以下、小林) 我々の活動を振り返ったときの共通点として気が付いたのですが、「あいつみたいなロックバラード」や「この世で1番嫌いな君を」など、 海で撮ってるMVの曲が多かったというのもあるんですよ。
── 前作が比較的ロックンロール的な要素が強かったアルバムだったのに対して、今回の作品はポップな方向に変化しているという印象を持ったのですが、バンドとして変えた、変わった実感などはありますか?
小林 前作はロックのアルバムという位置づけでいいアルバムができたなという実感はあったんですが、ライブでやる楽曲のセットリストを見ると、ポップ色が強い昔の曲をやってることが割と多かったり、リスナーさんや周りのミュージシャンからも「パリスは初期のポップな感じの印象が強い」といった話を聞く機会も多かったんです。そういった背景もあって、もう1回ポップなものがやれたらいいなという思いがありました。あと新しく入ってくれたイマイくんはベースだけじゃなくて作編曲もできる人なので、彼の力も加えた上で、さらに進化したポップスを中心にやれれば、という思いもありました。
明神 コード進行の展開など、イマイくんから僕の発想だけじゃないアイデアをもらえることで、楽曲の幅が広がった感じがありますね。
── 実際にイマイさんが編曲・作曲を手がけた曲が何曲か収録されていますが、ご自身が担当された曲はどのようなことを考えて制作されたのでしょうか?
イマ・イマイ(以下、イマイ) 元々別に世に出すわけでもなく、自分で曲を作ることはバンドに入る前からやっていたんです。このバンドに加入させてもらうことになったときに「曲のネタをくれると助かる」とみんな言ってくれたので、「これはどう?」という感じで割と気楽にネタを出して、ウケが良かったものが採用されたという感じでした。
── インストゥルメンタルの「Enoshima Drive」もイマイさんの作曲ですね。ボーカルのメロディーをなぞっているかのようなリードギターの演奏が印象的でした。
イマイ 僕はCASIOPEAやT-SQUAREといった日本のジャズフュージョンが大好きなので、ギターが前で鳴ってる感じのギターインストを1曲作ってみたいなとは思っていたんですけど、パリスでそれができるとは思いませんでしたね。
── なるほど。ベーシストとして好きなプレイヤーはいますか?
イマイ やっぱり櫻井哲夫さん(CASIOPEA)とか須藤満さん(T-SQUARE)ですね。ただ僕はフュージョンをやる前はずっとビック弾きで、ベースの位置も下げめにして弾いていました。その時の好みとしては、90年代の日本のロックバンド、L’Arc~en~Ciel、GLAY、JUDY AND MARYなどのピック弾き中心のベースが好きでした。
── なるほど、聴いている中で90’s感を感じられる場面があったので、今のお話は腑に落ちました。
イマイ 狙った部分もあるので、その感じが伝わったなら非常に嬉しいですね。
── 今回は鍵盤の採用が複数の楽曲でみられますが、このシンセサウンドの導入も90’s感に通ずるところがあったように思いました。
小林 川口ケイくんというキーボーディストに2曲参加してもらいました (「君の影」、「Success Code ~秘密の合言葉~」)。彼は前回シングルの「さくらソング」でも鍵盤を弾いてくれたし、僕たちのライブサポートにも長く入ってくれているんです。ライブ用のアレンジで自分たちの既存曲に彼の鍵盤が入っていく過程をリハで見てると、「やっぱりすごいな」という実感があったんですよね。
他の曲に関しては、イマイさんがいい感じの鍵盤を入れてくれています。自分のパートもやりつつ、いい感じの鍵盤を入れてくれる人というのがうちのバンドにはいなかったので、 本当にイマイさんが入ってくれてよかったなというアルバムになりました。ポップなものに原点回帰することを考えたときに、過去の曲には鍵盤を取りいれた楽曲というのがなかったので、今回の新しい要素として幅を広げられたと思います。
── ドラムの音色に関しても、前作はロック的な楽曲に合わせるように硬い強いビートの曲が多かった印象だったのですが、今回はポップの曲調に沿うような柔らかいアプローチが印象に残りました。音作り上の工夫で意識されたことはありますか?
阿久津信也(以下、阿久津) ドラムの音作りというと大事なのはチューニングになるんですが、先輩の現場を見たり、一緒に音楽をやる仲間も増えたりして、純粋にその辺の工夫が楽しくなってきたというのがありますね。「この楽曲だったらこういう感じなのかな?こういうスネアを使ったらどう変わるのかな?」といった音色の追及が、今回の作品にはすごく反映されたと思っています。
イマイ (レコーディングエンジニアの)tsiくんとスネアの音作りを一緒にやってた感じがあったね。
阿久津 そうだね。tsiくんはドラムをはじめ機材が大好きな人なので、そこで色々なお話ができたのも大きかったと思います。「こういうことしたら面白くない?」と提案してくれたり、僕がやってみたいことを伝えると、「じゃあこっちのマイクも試してみますか?」って迅速に対応してくれて。そういう実験的なところも含めて、今回のレコーディングはすごい楽しかったです。
── 小林さんのギターについてもお伺いしたいんですが、ここ最近は目まぐるしい勢いでアウトワークスにも関わられていますよね(cut(e)カワイイカッティング、DIALOGUE+、わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!etc.)。外部のお仕事をやったことで本作に還元されたことなどはありましたか?
小林 パリスで演奏するギターと外で仕事するギターには明確に違う感覚があり、パリスでのギターは明神さんのいい歌が前に出てくれればそれだけでいい、という感じなんですよ。スピッツの三輪テツヤさんのような、いい意味で前に出すぎずに支えるギターがすごく好きで、そういう欲求をパリスで昇華してる感覚がずっとあります。
一方普段やっているギタリストワークで求められているのはカッティングギターです。攻撃的で派手なカッティングから、LRサイドに違う種類のチャカチャカしたギターが鳴ってるみたいなアレンジとかを多くやってきて、この二つを棲み分けながら活動してきました。
ここでまたイマイくんの登場が大きいんですけど、彼と僕は通ってきたカルチャーが似てる部分も多くて、今回必然的に自分が個人でやってる方のギターを弾きたくなっちゃうという場面が多かったんです。すごくわかりやすいのは、 大久保 薫さん(ハロー!プロジェクトなどの楽曲を多く手掛ける作編曲家)によるアレンジの「夕陽の街並、恋の始まり」とイマイくんが作ってくれた曲に関しては、今までのパリスでのギターではない、ギタリスト仕事でやっている方のギターが出せたなと思います。
── おっしゃる通り、大久保さんアレンジの「夕陽の街並、恋の始まり」やイマイさん編曲の「Success Code 〜秘密の合言葉〜」でのカッティングギターは、過去作のパリスのアプローチではあまりなかったようなはつらつとした音色が特に印象的でした。
小林 「パリスでもやれたらな」という気持ちは今までもあったんですが、どう頑張ってもできなかったんですよね。 なので、大久保薫さんという禁じ手を使ったらできるのだろうか?という仮説があったんですけど、できちゃいましたね!
僕が大久保さんの楽曲に初めてギターで参加させていただいたのが大森靖子さんの「GIRL ZONE」という曲で、まさにワウを使ったカッティングと単音のカッティングが両方から鳴っているものすごい攻撃的なギターを弾いているんですけど、それをまんまパリスでできたっていうのは大久保さんのアレンジならではでした。「あ、それやっていいんだ」っていうか「むしろやってくださいよ」っていう隙間を与えられてるような気持ちで弾けて、めっちゃ楽しかったです。
── 阿久津さんはパリスの自主企画(夏のパリまつり!2024)で、「砂埃」のアレンジを担当された宮野弦士さん(フィロソフィーのダンス、鞘師里保、東京女子流などの楽曲を手掛ける作編曲家)の所属するバンド、7セグメントのサポートに携わったと思いますが、ミュージシャンとしての宮野さんはどんな人でしたか?
阿久津 ただただ音楽の人ですね。7セグメントのサポートをしたライブがまさにレコーディングの直前で開催されたんですけど、このサポートをやったのも大きかったです。宮野くんはドラムもうまいしこだわりも強いから、同じことやってても、「リズムの取り方や考え方、どういう風にリズムを感じてるかで印象ってこれだけ違うんだよ」という考えをしっかりと持っているんですよね。彼とこういった話を飲みながらできたのも大きかったです。だから、サポートを通じて得た経験が今回のレコーディングにはダイレクトに反映されてます。
小林 「砂埃」は最初にドラムとベースを録って、後日宮野くんの家に行って僕のギターを録ったんですけど、「この楽曲は、オールディーズの古いロックの感じのいなたさを出したい。そうするとこの時代はこのマーシャルのアンプはないから、当時の機材を考えてフェンダーのツインリバーブを使おう」みたいなすごい深い話になっていって。演奏についても、僕が一番自分のスタイルを出せるのってBPM140以降の四つ打ちだったりするのが明確なので、この曲のようなメロウでゆったりとしたブルースが自分の引き出しにはなかったんですよね。だから最初全然弾けなくて特訓が始まるんですけど、8小節に2時間ぐらいかけてたんです。これだけの作業にこんなに時間を使うというのは、普通じゃありえないんですよ(笑)
でも彼がまるで遊びの感覚でつきあってくれたのがすごく嬉しくて。もう無我夢中でロックマンとかスマッシュブラザーズやってた小学生のときに戻ったような感覚ですよね。やっぱり音楽もこういう向き合い方でやってかないとなあという反省というか、これからもこの曲を聴くことで「またちょっと頑張ろう」みたいな気持ちになるだろうなっていう、僕にとって思い出の1曲ですね。
── 馬瀬みさき(プリキュア楽曲、小柳ゆき、宮野真守などのアレンジを手掛ける作編曲家)さんアレンジの「Blue」についてはいかがでしょうか?
イマイ これも原曲から相当変わったと思いますね。最初のデモと結果的にできた曲の差分を楽しんでもらうというクラウドファンディングのプランもあるので、支援して下さったお客さんにもそこを楽しんでもらえると思います。ストリングスのない明神さんの歌で収録されていたデモのメロディーは基本軸にあった上で、 全てがストリングスベースで書き換わっていって。更に言うと、この曲にはスピッツの「正夢」がひとつみんなの共通認識としてあったんじゃないかと思います。ストリングスが入ってきても個々の音は聴こえるし、ギターソロもちゃんと入ってる、というバランスが感動的でしたね。
小林 付け加えると、渡ケントくんという、これまた僕らの仲良しなシンガーソングライターがいるんですけど、彼の「生きてたらあなた」という曲があって。この曲も彼女がアレンジをしていて、弾き語りのデモからがっつりストリングスが入ったアレンジになったんですよね。この時の原体験がもうあまりにも感動的すぎて。「これをパリスでやりたい!」という明確な正解のイメージが見えてたので、「Blue」が上がってきた段階で、これは馬瀬さんにお願いしたいなという流れで依頼に至りました。
── 小林さんはDa-iCE『MUSi-aM』に収録されているパリスが演奏に加わった「Story」、「Aware」でも馬瀬さんとはご一緒されていますね。「Blue」とは曲調も大きく異なり、馬瀬さんのアレンジャーとしての幅の広さがうかがえますが、Da-iCE楽曲の制作はどのような流れでしたか?
小林 和田くんとは高校の同級生という縁から始まって、これまでの「H?NTO」や「Story」では明神と和田くんと僕の3人で曲を作ってきました。ただ、今回は和田くんからまたちょっと違うアプローチをやってみたいという話が挙がったんです。「Story」のアレンジをしてくれたのが馬瀬さんだったので、そこでうちに来てもらって(※馬瀬みさきさんは小林のパートナーでもある)、和田くん、馬瀬さん、僕の3人で制作をして…みたいな流れでしたね。「Story」も「Aware」もロックの曲なので、こうやってみては?みたいな提案は割と自分からも挙げさせてもらった感じがあるかもしれません。
── 本作はクラウドファンディングによる支援があって製作された作品ですが、100パーセントゴールを約1週間で達成されたというのはすごいですね。ファンの方々との強い関係性が現れていると思いました。
小林 ちょっと信じられなかったっすね。マジで、3パーセントとかで終わると思ってたんで(笑)
阿久津 不安だったよね。どういう感じで見られてるのかって、わからなかったし。
イマイ クラファンでご支援いただいて、バンドとしても盛大に作品を作れたと思います。一方で、じゃあ次の作品をどうするか?っていうことを考えるとちょっとプレッシャーですね…。
小林 いや、イマイさんは大久保 薫、馬瀬みさき、宮野弦士の要素を吸収して、今後最強のアレンジャーになっていく人間ですし、 明神ナオもずっといい曲書いてるのでこれからも彼は変わらずにやっていくと思いますし、阿久津さんはこれからもめちゃくちゃいいやつです(笑)
明神 アレンジャーさんにこれだけお願いできたのも、応援して下さった皆さんのおかげです。周りの環境に感謝しながら、今出せるベストをちゃんとやりたいなというのは、すごく強く思うことですね。
── 応援コメントも拝見したんですが、「地方在住なので東京のライブには行けないけど応援しています」といった声も多かったように思いました。
明神 だから来年はツアーを回りたいなという話はしています。ちゃんと現地に行って、ライブで今作を表現できればいいなと思ってますね。新しい曲を早くみんなに聴かせたいなという気持ちです。
小林 ここで初めて話す内容ですが、来年の春に名古屋と大阪に行く計画をしているところなので、楽しみにしていて欲しいです!
── まずは新譜発売記念のワンマンライブ「PARIS on the City!!」が11月22日(金)に新代田FEVERで予定されていますね。
小林 今回、自分たち4人で再現できる曲が良い意味で少ないんですよね。なので、サポートで川口ケイくんも参加してくれるし、スペシャルゲストとして宮野弦士くん、馬瀬みさきさん、真庭レイモンさんを呼んで演奏する曲も考えています。僕らの最新のいい状態を楽しんでもらえるようなライブにしようと思ってるので、ぜひ遊びに来ていただきたいです。
優れたポップソングとは、美しい言葉の配列だけでは成り立たず、音運びの気持ちよさだけでも成立しない。名曲と呼ばれる多くのポップソングは「ある言葉と音の組み合わせ」によって快感や喪失といった、なにかしらの感情を想起させる特別な一節を携えているものだ。
草野マサムネが潮騒をたたえるかのようなシンセベースのリフレインの上で、”柔らかい日々が波の音に染まる”と歌った「渚」のように。あるいは、松任谷由実がわだかまりが砕け散るようなドラミングに合わせて”ゆるし合うほほえみは神様にもらった最高の贈りもの”と歌った「forgiveness」のように。私たちはあるときには歌詞中の物語に心を打たれ、またあるときには一つの言葉を自分の世界を代弁する一言のように捉え、そしてまたあるときにはそこで歌われ、演奏されるメロディーに心を躍らせる。
PARIS on the City! の新作『PARIS on the City!!』も、まさにそうしたポップスの流れに身を置かんとするアルバムである。「海」をテーマに制作されたという本作は、一聴すれば聴き心地の良いサマーチューンを多く揃えたポップアルバムでありながら、じっくり歌詞に耳を傾けると、その言葉選びには愉悦以外の感情が多分に含まれている。本作は時に隅におけない旧友たちとのドライブのBGMになり、またある時には過ぎ去った甘美な季節に想いを馳せるときのプレリュードにもなるだろう。
「愛は究極だとして」ではストレートなロックンロールに乗せて意中の相手に対して勇気が出ない焦れた感情と、創作者の苦悩という二つの世界線が一つの歌詞から描き出される。清涼感のあるコーラスと軽やかなバッキングが心地よい「君の影」や、バンド初期のモータウン調の楽曲とも通ずるカントリー風なリズムが楽しい「Heaven」ではその軽快さとは裏腹に、孤独な感情や失恋の喪失感が歌い上げられる。「Success Code ~秘密の合言葉~」では、ラジオDJによる幕開けのタイトルコールや曲中の爽やかなホーンセクションを楽しめながらも、どこかマイナー調なメロディーが聴き手の寂寞感を喚起する。
このように一つの楽曲の中に多面的な解釈や着想を仕込まんとする姿勢は、作詞作曲を担当する明神ナオの作家性と言えるだろう。かねてより「1つの単語、1つのメロディー、楽器の音でもなんでもいい。なにか1つのそれがリスナーの心に刺さって欲しい」と語るスタンスは本作でも健在である。