PARIS on the City! が3年ぶりの新作『PARIS on the City!!』をリリースした。本作は2024年3月に加入した新ベーシスト、イマ・イマイ参加後初めての作品である。クラウドファンディングによる支援を通して実現した、外部アレンジャーやサポートミュージシャンの参加も本作の新たな試みである。
新作がどのような思いのもと制作されたのかを紐解くため、作詞作曲担当の明神ナオ(Vo./Gt.)および、メンバー全員へのインタビューを実施した。会話からは、これからも長く音楽活動を続けていきたいという思いや、新メンバーを迎え、バンドの現在地が充実していることが伺える空気感を感じとることができた。
また、前作と本作の間のトピックとして、Da-iCEへの楽曲提供を始めとした各種アウトワークスの経験についても話を聞いた。
これまで彼らを応援してきたリスナー、そして本作で新たに彼らの音楽に出会うリスナー双方に楽しんでもらえたらと思う。
written by モリユウキ
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前編/明神ナオ ソロインタビュー
── 今回のアルバムはいつ頃に作られた曲が収録されているのでしょうか?
明神ナオ(以下、明神) 基本的には新しいベーシストのイマ・イマイ(Ba.)が加入した後、2024年3月以降に作られた曲になります。レコーディングの始まる3~4ヶ月前ぐらいから本格的に形にしていきました。一番新しくできた曲は1曲目の「愛は究極だとして」で、レコーディングの2週間前ぐらいにできた曲ですね。
── アルバムのコンセプトはありますか?
明神 今回のアルバムは海をモチーフにしています。僕の原風景は高校まで育った地元高知県の港町で、自分の海に対する思い出やイメージをもとに、海を連想させられるような言葉をチョイスして歌詞作りをしていきました。例えば「メジカ」という曲は、僕が小学校のときにおじいちゃんと船に乗ってメジカ(高知県におけるソウダガツオという魚の通称)を釣りに行ったときのことをモチーフにしていて、そのときの情景とか、記憶の中にあるものを言葉に落とし込んでいます。
── コロナ禍の中で作られた前作『擦り切れても骨になるまで』では「ストレートなものを作りたかった」とおっしゃっていましたが、今作はどのようなことを考えて制作されたのでしょうか?
明神 自分自身が今歌って、ライブをして、楽しめるものかどうかを大事にしました。格好つけるつもりではないのですが、生きていればしんどいことも当然あるんですよ。でもいつか人は死んでしまう。そう思うと、「今しんどいことだとしても、どうしたら楽しめるかな」と考えるんです。コロナ禍もそうですが、自分の予想してないことが起きる世の中だからこそ、今この瞬間を大事にしないといけないという思いが大きいです。
── 今作の中で、その思いが反映されている楽曲などはありますか?
明神 「愛は究極だとして」でしょうか。先に挙げた通り、この楽曲は収録曲の中で最後にできた楽曲なのですが、アルバムに入れる最後の一曲が決まらずにすごく苦しんでいたある夜、自分と向き合っている中でできた曲です。自分はなぜ曲を書いているのか、曲を書くというのは楽しいけれど、言葉が降ってこないときはすごいしんどいし、やめてしまうときもある。そういう創作の思いをもうそのまま言葉にしてしまおう、と思いました。そうしてできた曲が「愛は究極だとして」なのですが、アルバムをまとめるような一曲になったと思います。ひいては自分自身、作ってよかったなと思えるアルバムが出来上がりました。
── 作曲についてはどのように進行していきましたか?
明神 僕は作曲するとき、最初に色々試すんです。同じものでもバラードにしてみたり、テンポをあげて歌詞を詰め込んで歌ってみたり。色々試した中で、自分が一番楽しめるものをチョイスしていく感じです。なので、今回のアルバムのメロディー作りも、1曲に対して10パターンぐらい作っていて、そこから選んでいくという作業でした。
── 1曲に10パターンはすごいですね。今作は10曲入りなので、単純計算で100パターン近くの試行があったことになりますね。
明神 僕は音楽を聴くとき、メロディーを第一印象にして入っていくタイプなんです。例えば、僕は桑田佳祐の楽曲が大好きなのですが、「波乗りジョニー」のサビの部分(だから好きだと言って/天使になってそして笑って/もう一度)を大人になって聴けば「これは恋愛の歌だな」とすぐに理解できますよね。でも、子どものころの僕はこの曲を恋愛ソングとして好きになったわけではなくて、メロディーの良さに惹かれて好きになったんです。そういった視点で考えると、僕にとって音楽を作るときに一番大事なのはメロディーなんだなと思います。
── その観点から、今作の中で特に気に入っているメロディーラインなどはありますか?
明神 「MOON LIGHT!!! ~イケナイHeart Beat~」のサビとか好きですね。「1,2,3,4(ワン、ツー、スリー、フォー)」はどうしても入れたかった。色々変えてみたのですが、ここはもう仮歌の時から変わっていないです。この曲で描いている心拍数のカウントを表そうと思って作ったフレーズですね。
── 今作の歌詞を拝見していると、コンセプトとなっている海を感じさせるフレーズと同時に、単語としては「心」や「気持ち」という語が多く用いられているようなのですが、なにか思うところがあったのでしょうか?
明神 人々の潜在意識のその先、みたいなものを描きたいのかもしれません。世の中には自分の正直な気持ちを我慢して暮らしている人もいれば、 その一方で気持ちを隠さずに思いっきり表現している人もいる。多様な人々が入り混じる中で生じる心の動きのようなものを、物語として音楽の中でうまく描くことができたらいいなとは思っています。あと、僕は曲を作るとき、適当な言葉や英語を当てはめた仮歌をあてるところから曲を作り始めるのですが、意識していないところで同じような単語を使っているのかもしれません。言葉の響きやメロディーが気にいって残ったものが、結果的に表出しているのかもしれないですね。
── 言葉の響きということで言うと、今回の作品は押韻や脚韻など、J-POPに特徴的な言葉のリズムが多用されているように感じました。歌詞の意味と言葉のリズムのバランスで工夫した点などはありますか?
明神 自分の中には真面目な部分がある一方で、真面目一辺倒じゃなくてもいいんだというところも考えながら、今回の作品ではその両面を言葉遣いに反映させられたかなと思います。遊び心も入れたいので韻を踏んでみたり、英語に聞こえる日本語を歌ってみたりまたその逆もしかり、みたいなところは意識しています。他にも、例えば一般的にバラードソングというと、切なくてちょっと重い感じの曲、というイメージがありますよね。本作の中では「Blue」や「砂埃」はバラードに分類されると思うのですが、一般的なイメージとは違う多方面からの楽しみ方があってもいいよな、という思いで歌にリズミカルなメロディーを入れてみたりしました。
── 以前「言葉がきれいになっていくのが悲しい」という投稿をされていたのをSNSで拝見したのですが、明神さんの中では先のお話とも通ずるようなところがあるのでしょうか?
明神 ある瞬間にあふれだした感情の、その結実としての言葉が本来は大事なのに、言葉が綺麗になると一枚フィルターをかけられてしまったような気持ちになるんです。例えば、「だるいな~」とか、「しんどいな~」という一言を、本当ならそのまま歌詞に使いたいとしても、往々にしてそれは「辛い」みたいな歌にあう言葉に加工されてしまう。ですが、元々発された言葉はその人だからこそ出てきたものなのであり、その一言にこそ、その人の個性や想いが全部入っていると思うんです。
── それで言うと、PARIS on the City!の歌詞世界って恋愛のことを主題にはしつつも、一直線の物語という単純なものではないですよね。情景描写だったり、登場人物の語りだったりといった各種要素が複合的に散りばめられていて、「ここはどういう意味なのだろう」と考えさせられる作品も多いと思うのですが、この複合的な描き方は意図的なものなのでしょうか?
明神 最初は物語をちゃんと作るんですけど、それを一回崩すんです。その時に、「ここはあえてはっきり歌わない方が色々な意味で捉えられるよな」とか「この言葉をちょっと濁すことで違う風にも捉えられるよな」といったことは意識しています。ずっと恋愛ソングとか失恋ソングだけを聴き続けるのってきついじゃないですか?(笑)なので例えば、失恋ソングの歌詞が失恋とは全く関係のない文脈で誰かに刺さって、その人の生きる希望になってくれたらいいなとは思っています。
── 今回はアレンジャーの起用やメンバーが編曲を手掛けている曲なども多いですが、ご自身が最初イメージしていたものと、 結果が大きく変わった楽曲などはありますか?
明神 例えば「Blue」はそうかもしれません。最初のデモの時にはストリングスが入っていなくて、もっとエレキギターがギャンギャン鳴ってた曲だったんですけど、アレンジャーの馬瀬みさきさんがすごくドラマチックなサウンドにしてくれて、切なさが増しました。ストリングスもバンド史上初めて生のストリングスを導入したので、レコーディング中の感動がすごかったです。
── アレンジャーといえば、明神さんご自身も楽曲提供という形で他のアーティストの楽曲制作に関わられましたよね。直近ではDa-iCEの「Story」が挙げられるかと思います。普段のPARIS on the City! の曲調やテーマとは異なるオーダーの楽曲だったと思いますが、楽曲提供の経験を経て、何かご自身の創作に還元されたことはありますか?
明神 「Story」はDa-iCEメンバーの和田颯くんとメロディーと歌詞を共作した作品で、「FAIRY TAIL 100年クエスト」の主題歌として書き下ろしました。なので、バトル感の強い曲で、BPMやキーをタイアップ作品の雰囲気に合うように近づけていく作業をしました。自分ではあまり意識はしていない話にはなりますが、メロディーの持っていき方や楽曲の展開、メロ~サビでインパクトを残すということを自然と考えているかもしれません。これも自分では意識していないことなのですが、僕の作る曲はキャッチーだと周囲からはよく言われるので、そういう耳に残るものが僕は好きなのかもしれないです。
── おっしゃる通り、今作はキャッチーで耳に残るメロディーが多い作品だなと思いました。過去作と比べてもポップさが際立つアルバムだと感じたので、特にそう思ったのかもしれません。
明神 多方面から捉えられるジャンルだからこそ、細かいところにこだわっていきたいなというのはありますね。言葉でもメロディーでも楽器の音でも、なにかひとつでも聴いてくれる人に刺さってくれれば嬉しいです。バンドとしてもこの新作がライブや今後の活動で活かせる武器になればいいなと思っています。